不動産DX導入ガイド|メリット、ポイント、注意点を解説
不動産業界では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の導入が大きな課題となっています。必要性を理解している企業は多いものの、実際に導入を進めているケースは少ないのが実情です。
その背景には、紙やFAXに依存した業務、長時間労働、そしてデジタル人材の不足といった問題があります。このままでは、多様化する顧客ニーズに対応できず、成約機会を逃しかねません。
そこでこの記事では、不動産DXを導入するメリットや具体的な進め方、成功のためのポイント、さらに実際の導入事例までを分かりやすく解説します。
目次[非表示]
1. なぜ不動産業界にDXが必要なのか?
2022年に実施された「不動産業界のDX推進状況調査」では、 98.4%もの不動産会社がDXの必要性を認めていますが、実際の取り組みは31.9%にとどまっています。
また、 テレワークの導入率も33.4%と、他業界に比べてデジタル化が進んでいないのが現状です。その背景には、次のような課題があります。
・長時間勤務による人手不足
・顧客ニーズの多様化
・アナログ業務への依存
不動産業界が今なぜDXを進めるべきなのか、その背景を具体的に説明していきます。
参照:全国賃貸住宅新聞「 不動産DX「推進すべきだと思う」が98.4%に【6社合同DX推進状況調査】」
参照:国土交通省「 令和5年度テレワーク人口実態調査-調査結果(概要)」
長時間勤務による人手不足
不動産業界は、顧客の予定に合わせて動く場面が多く、勤務時間が不規則になりがちです。
たとえば、平日は仕事終わりの時間に契約手続きを行ったり、週末は物件案内が集中したりと、従業員が自分の時間を削るケースが多くあります。
さらに、成果がそのまま給料に反映される歩合制の仕組みも、長時間労働を増やす原因の一つです。
この働き方が続くと、仕事とプライベートの両立が難しくなり、従業員は離職を考え始めるでしょう。企業にとっては採用難につながります。 定型業務を自動化し、どこでも働ける環境を整えるために、DXの導入が欠かせません。
顧客ニーズの多様化
スマートフォンの普及やデジタル技術の進歩により、物件探しのスタイルは大きく変わりました。今ではインターネットで情報を調べるのが当たり前になり、オンラインでの相談や非対面サービスを求める人も増えています。
さらに、住まいの選び方も「新築か中古か」の二択にとどまらず、リノベーション前提の物件や、DIYできる物件など、ライフスタイルに合わせた幅広い選択肢が求められるようになってきました。
こうした多様な顧客ニーズに応えるには、 DXを活用して顧客データを分析し、一人ひとりに合った提案を行える仕組みが必要なのです。
アナログ業務への依存
多くの不動産会社で、今も紙の契約書、FAX、手作業の顧客管理が中心です。これらは時間がかかるうえに、ミスや共有遅れも起きやすく、担当者に依存した体制になります。
たとえば、契約書や重要事項説明書を紙で作成し、来店や内見をすべて対面で行うのは大きな負担となるでしょう。さらに、古い顧客管理システムを使い続けていることで、貴重な顧客情報を有効活用できていないケースも見られます。
こうした非効率な作業を減らすためにも、 従来のアナログ業務を見直し、早急にDX化を進めることが重要です。
2. 不動産会社がDXを導入するメリット
DXの導入は、ただ最新のデジタル技術を取り入れるだけではありません。会社の利益や成長につながる大切な経営戦略です。
ここでは、不動産会社がDXを導入することで得られる6つのメリットを詳しく解説します。
・業務効率化の実現
・顧客満足度の向上
・コスト削減と収益の最大化
・DX活用によるマーケティング強化
・長時間労働の削減と人手不足の解消
・データドリブンな経営が可能
業務効率化の実現
手作業や紙中心の業務をデジタル化すると、これまで事務作業に費やしていた時間を短縮し、人的ミスを削減できます。
たとえば、電子契約システムの導入によって、契約書の作成から確認、押印、郵送、ファイリングまでをクラウド上で完結可能です。最新のひな形を共通化すれば、修正の抜け漏れや二重入力が減り、検索・差分チェック・進捗把握も画面上で済みます。
これにより、1契約あたりの処理時間が短くなり、 空いた時間を問い合わせ対応や提案づくりなど、顧客と向き合う業務に充てられます。
顧客満足度の向上
DXは、顧客にとっても大きなメリットがあります。オンラインで接客や契約ができる仕組みを整えれば、好きな時間や場所で気軽に住まい探しを進められるからです。
さらに、Web内覧やビデオ通話での物件紹介を取り入れることで、遠方に住む方や仕事で忙しい方でも、自宅にいながら複数の物件を比較できるでしょう。
その結果、 来店回数が少なくても成約率を下げず、むしろ高めることが期待できます。その際は丁寧なコミュニケーションが欠かせません。
コスト削減と収益の最大化
ペーパーレス化や業務効率化を進めれば、無駄な経費を減らし、効率的に利益を増やせます。契約書や重要事項説明書を電子化すると、紙やインク、郵送費が不要です。
書類の保管スペースもいらなくなるため、オフィスや倉庫にかかる費用削減にもつながるでしょう。
さらに、顧客データをデジタルで管理すれば、 手作業が大幅に減り、人件費の削減や業務スピードの向上も可能です。削減できたコストや時間は、問い合わせ対応の質向上や提案づくり、教育などの将来投資に回すことで、会社の継続的な成長を後押しできます。
DX活用によるマーケティング強化
顧客管理システム(CRM)や営業支援システム(SFA)を使えば、データにもとづいたマーケティングが可能になります。
顧客の閲覧履歴や問い合わせ内容、過去の成約データなどを分析することで、一人ひとりのニーズを把握し、適切なタイミングで物件を提案できるでしょう。
たとえば「駅近でペット可」を希望する顧客には、条件に合う新着物件情報を自動で配信可能です。勘や経験に頼らず、客観的なデータにもとづいて営業すれば、 提案の精度が上がり、成約率の向上が見込めます。
長時間労働の削減と人手不足の解消
業務の自動化やオンライン化により、従業員の働き方が大きく変わります。内見予約や問い合わせ対応をチャットボットと予約システムに任せれば、 営業時間外の対応が不要になり、従業員の負担を大幅に軽減できるのが利点です。
また、多くの業務を在宅で行えるようになれば、育児や介護をしている従業員も働き続けやすくなるでしょう。柔軟な働き方を認める環境は、 人材の確保や定着につながり、人手不足の解消にも役立ちます。
データドリブンな経営が可能
DXで蓄積した膨大なデータを分析すれば、経営者はより的確な判断ができるようになります。過去の取引や市場の動き、顧客の行動パターンを整理することで、 根拠のある事業戦略を立てられるからです。
さらに、AIの入った価格査定システムを導入すれば、常に適正な価格で売買でき、早期成約や収益の最大化も期待できるでしょう。リアルタイムのデータを活用できると、市場の変化に素早く対応でき、競争力を維持できます。
3. 不動産DXの導入でできること
不動産DXといっても、その対象は多岐にわたります。重要なのは、 自社の課題や目的に合ったツール選びです。
ここでは、不動産業務を効率化する代表的なツールの種類と主な機能を紹介します。
4. 不動産DX導入の進め方|6ステップ
不動産DXを効果的に進めるには、明確な目標と計画を立て、段階的に取り組むことが重要です。やみくもにツールを導入するのではなく、現状を整理したうえで、自社に合うツールを選びましょう。
ここでは、導入を進める6つの手順を分かりやすく説明します。
①課題を把握する
②目的を明確にする
③必要な機能を検討する
④必要な機能を搭載した不動産DXツールを選定する
⑤従業員に周知し理解を得る
⑥不動産DXツールを導入して活用する
①課題を把握する
DX導入を進めるうえで大切なのは、まず自社の課題を正しく把握することです。「他社がやっているから」と真似してツールを入れても、根本的な問題解決にはつながりません。
最初に業務全体の流れを見える化し、 どの作業が非効率で、どこがボトルネックになっているのかを整理しましょう。現状の把握には、従業員へのヒアリングやアンケートが欠かせません。
②目的を明確にする
課題が整理できたら、DXで何を達成するのかを具体的に決めます。 目標は測定できる数値で設定することがポイントです。
・契約書作成にかかる時間を30%短縮する
・オンライン相談を導入して顧客対応時間を20%減らす
・VR内見を取り入れ、新規問い合わせ件数を2倍にする
数値で表せる目標を立てることで、導入後の成果を正しく検証できます。目的が曖昧なまま進めると効果を測定できず、投資の妥当性を判断しにくくなるため注意が必要です。
③必要な機能を検討する
次に、目的を実現するために必要な機能を洗い出します。業務効率化を狙うなら、契約書や重要事項説明書の自動作成機能、物件情報を一括で更新できる管理機能、進捗を共有できるタスク管理機能などが役立つでしょう。
顧客満足度を高めるには、オンライン相談、チャットボットによる即時対応、顧客専用マイページでの予約や資料閲覧といった機能が有効です。
さらに売上拡大を目指すなら、AIによる価格査定機能や、過去データを分析して物件を自動提案する機能も検討対象になるでしょう。課題解決に 必要な機能をリストアップすることで、導入すべきツールの要件が明確になります。
④必要な機能を搭載した不動産DXツールを選定する
洗い出した要件をもとに、市場にあるDXツールを比較検討します。評価の観点は、以下の通りです。
・機能の充実度
・直感的な操作性
・導入後のサポート体制
・導入実績や評判
・価格と費用対効果
候補は3社程度に絞り、必ず無料トライアルやデモを利用してみましょう。実際の業務にどれだけフィットするか、従業員が負担なく扱えるかの確認が大切です。導入前のテスト運用が、後の定着を大きく左右します。
⑤従業員に周知し理解を得る
導入するツールが決まったら、全従業員に向けて説明会や研修を実施しましょう。 導入目的や意図、さらに従業員自身にどのようなメリットがあるのかを丁寧に伝えてください。
導入によって得られる効果や活用方法を共有すれば、従業員の新しいシステムに対する不安を減らし、協力を得ながらスムーズに運用できます。トップダウンで一方的に押し付けるのではなく、現場の声を取り入れることが協力を得る近道です。
⑥不動産DXツールを導入して活用する
DXツールを導入したら、ベンダーが用意する研修やサポートを活用し、まずは 1部の部署や限られた業務で試験的に活用しましょう。その後、効果を確認しながら少しずつ利用範囲を広げることがポイントです。
導入後は利用状況を定期的に確認し、課題があれば早めに改善します。追加の研修や成功事例の共有を行い、従業員からのフィードバックを反映させましょう。継続的に改善を重ねることで、自社に合った使い方に最適化され、ツールの効果を最大限に引き出せます。
5. 不動産DX導入のポイント
不動産DXを全社に浸透させるには、現場の混乱を抑えつつ、着実に成果を積み上げる工夫が必要です。特に意識したいのは次の2点となります。
・ロードマップを策定する
・スモールスタートにする
ロードマップを策定する
DXを進めるには、ロードマップ作りから始めましょう。DXは短期的に終わる取り組みではなく、 長期的な計画にもとづいて進めることが必要です。
最初からすべてをデジタル化しようとすると現場の負担が大きく、混乱が生じやすくなります。まず自社の課題を整理し、優先度の高いものから着手しましょう。
そのうえで、スケジュールや担当者を明確にし、全社で共有してください。
・いつまでに
・どの業務を
・どのように変えるのか
・誰が責任を持つのか
ロードマップがあれば、関係者全員が同じ方向を向き、取り組みの途中で形骸化するのを防げます。
スモールスタートにする
DX導入は一度にすべてではなく、 小さな範囲から始めて効果を検証しながら広げていく「スモールスタート」が効果的です。
最初から大きな投資はせず、まずは特定の業務や一部の店舗でツールを導入し、成果を確認します。
たとえば「電子契約システムを一部導入する」「特定の営業チームでCRMを試す」といった形です。
小さな成功体験を積み重ねれば、現場の納得感も得やすく、社内に無理なく浸透するでしょう。その結果、リスクを抑えつつ、段階的に全社へと展開できます。
6. 不動産DX導入の注意点
不動産DXは多くのメリットがある一方で、導入時には注意が必要です。ここでは特に意識しておきたい3つのポイントを紹介します。
・従業員の理解と協力を得る
・運用ルールを決める
・定着化の促進とフォローアップをする
従業員の理解と協力を得る
いくら優れたシステムでも、実際に使うのは現場の従業員です。理解と協力がなければ、定着は難しくなります。
導入前には必ず説明会やデモンストレーションを実施し 「なぜ今DXが必要なのか」「新しいシステムによって業務がどう改善されるのか」を丁寧に説明しましょう。
一方的に進めてしまうと、従業員の反発を招き、せっかくのシステムが使われなくなるおそれがあります。不安や疑問を解消しながら進めることが、協力を得るための基本です。
運用ルールを決める
新しいツールを導入するときは 「誰が、いつ、どのように使うのか」といった具体的な運用ルールを決めておくことが大切です。
顧客情報の入力方法や物件情報の更新頻度、対応履歴の残し方を統一しておかないと、データの整合性がとれず正しく活用できません。
社内マニュアルを作成し、定期的に運用状況を確認することで、ルールが形骸化するのを防げます。全社で共通の認識を持ってシステムを活用できるでしょう。
定着化の促進とフォローアップをする
DXツールは導入して終わりではなく、現場で日常的に使われてこそ効果を発揮します。特に導入直後は操作方法に戸惑う従業員も多いため、継続的なフォローが欠かせません。
定期的な研修や操作トレーニングを実施する、問い合わせ窓口を設けるなど、従業員が安心して利用できる環境を整えましょう。
さらに、利用状況や効果を定期的に確認し、 必要に応じて業務フローを見直したり、新しい機能を追加したりすることも有効です。こうしたフォローを続けると、ツールが社内に根づき、成果を安定して出し続けられるようになります。
7. 不動産DXの導入事例
不動産DXの必要性やメリットは理解できても、自社に導入した際の変化をイメージしにくいことがあります。そこで、実際に成果を出している企業事例を3つ紹介します。
三井不動産リアルティ株式会社
個人向け不動産仲介事業「三井のリハウス」を展開する三井不動産リアルティは、顧客への物件紹介に課題を抱えていました。
営業が時間をかけて物件情報を送っても、顧客が見たか分からないうえ、物件資料の会社名や担当者名を差し替える「帯替え」にも多くの時間を取られていました。
そこで、顧客コミュニケーションツール「Facilo(ファシロ)」を導入。 顧客が物件情報を閲覧した際に通知が届くようになり、閲覧状況を把握できるようになりました。
また、 帯替え作業も自動化され、業務効率が大幅に向上。「リハウスの物件はまとまっていて見やすい」と顧客からの評価も高まりました。
参照:Facilo導入事例「三井不動産リアルティ」
BWコンサルティング株式会社(ThreeDesigns)
2023年に不動産事業を立ち上げたBWコンサルティングは、店舗を持たないフルリモート体制で事業を拡大しました。
創業当初から「 Facilo」を導入し、顧客の閲覧ログを分析して潜在的なニーズを把握。一人ひとりに合わせた提案を続けた結果、 初回連絡の返信率40%、内見からの成約率60%という高い成果を上げています。
不動産仲介の経験がほとんどないメンバーでスタートしたにもかかわらず、ITツールを活用して実績を積み上げました。 経験の浅い人でもできるという効率的な営業体制の良い事例といえます。
参照:Facilo導入事例「BWコンサルティング株式会社」
三菱地所ハウスネット株式会社
「提案力No.1」と評判の三菱地所ハウスネットも、物件提案の複雑化という課題を抱えていました。
顧客の希望条件が多岐にわたるため、その都度検索条件を設定し直す手間や、物件情報がさまざまな場所に散らばっていることが効率的な提案を妨げていたのです。
「Facilo」の導入により、顧客ごとの検索条件を無制限に登録できるようになり、 物件検索のハードルが大幅に低下しました。
また、物件に関する情報を顧客専用のマイページに集約することで顧客の反応率もアップ。再内見につながりやすくなるなど、 顧客体験価値の向上と業務効率化を同時に実現しています。
参照:Facilo導入事例「三菱地所ハウスネット株式会社」
8. 不動産DX導入に関するよくある質問
ここでは、不動産DXの導入に関するよくある質問を紹介します。
Q1. DXツールを導入すればすぐに効果は出ますか?
Q2. ITに詳しくない従業員でも使えますか?
Q3. 導入コストはどのくらいかかりますか?
Q1. DXツールを導入すればすぐに効果は出ますか?
A1. 一部の業務では導入直後から効果を感じられますが、多くの場合は長期的な視点が必要です。
特にCRMのような顧客管理ツールは、データがたまって初めて本格的に活用できるため、成果が出るまで数か月から1年ほどかかる場合もあります。
大切なのは、 焦らず継続して使い続け、分析を重ねることです。
Q2. ITに詳しくない従業員でも使えますか?
A2. 最近のDXツールは直感的に操作できる設計になっており、加えて多くのベンダーが導入時に研修や説明会を実施しています。
選定段階で無料トライアルを試し、操作性を確認するとよいでしょう。従業員向けの勉強会を定期的に開催することも有効です。
Q3. 導入コストはどのくらいかかりますか?
A3. DXツールは、種類や機能、利用人数によって幅があるものです。月額数千円で使えるクラウド型サービスもあれば、数百万円の初期費用が必要なシステムもあります。
中小企業の場合、 IT導入補助金の活用が可能な場合もあるため、専門家やベンダーに相談してみるとよいでしょう。
9. 不動産DX導入の成功への道
不動産DXは、紙や手作業による非効率、深刻な人手不足、多様化する顧客ニーズといった課題を解決し、会社の成長を支える取り組みです。
大切なのは、 自社の課題を正しく把握し、明確な目的を持って段階的に進めること。従業員の理解と協力を得ながら改善を重ねれば、効果は着実に積み上がります。
不動産コミュニケーションクラウド「Facilo」は、物件提案や顧客管理を効率化し、顧客満足度の向上にも役立つツールです。導入した企業では、業務効率の改善だけでなく、データ活用による成約率の向上や新しい顧客体験の提供も実現しています。
不動産業務をさらに効率よく進めたい方は、 Faciloの資料をダウンロードして、導入を検討してみてはいかがでしょうか?